「自己理解」
この言葉を耳にしたことはありますでしょうか。
カウンセリングを学んだことがあるかたでしたら確実に聞いたことがあるはずですし、
学校で「キャリア教育」を受けている世代ですと
「聞いたことがあるなあ」と思われるかもしれません。
反対に、キャリア教育が教育現場に浸透する前に学校を卒業した世代ですと、
初めて耳にするかたもいらっしゃるかもしれません。
自分のことというのはよくわかっているようで、実はよくわからないというのが本音だと思います。
自分理解とは字のごとく、自己を理解すること。
それは、あるがままの自分の姿を理解することであり、その姿を受け入れるということです。
理解するだけではなく、受け入れることが必ずセットです。
さらに言えるのは
自分の良い(と思う)面だけは受け入れ、
悪い(と思う)面は受け入れないというのは
自己理解の効果を半分ももたらさないだろう、ということです。
なぜなら、誰しも良い面、悪い面を持ち合わせていますし、
また良いも悪いも、物ごとの見方次第では判断が変わってくるからです。
そしてなにより
悪い(と思う)面を受け入れないのは、かけがえのないあなたという存在の、ある面を自ら損ねる態度だからです。
人によっては、これは非常に耳の痛い言葉だと思います。(私もその一人です)
胸が痛むかたもいらっしゃるかもしれません。
目を背けたくなるかたもいらっしゃるでしょう。
耳障りの良いことだけを伝えるのは簡単ですし、人からも好かれるのですが……。
「良薬は口に苦し」という言葉もございます。
少々胸の痛む話かもしれませんが、胸が痛むのはなぜなのか、ということも含めて
今回と次回の2回にわたり
自己理解にどのような効果があるのかを中心にお話ししてまいります。
それでは、自己理解の楽しい世界へ、ご一緒に参りましょう!
自己を理解することで自分自身にとってどのような効果があるか
カウンセリングの場において
またキャリア教育の場において「自己理解」が取り扱われるのはなぜでしょうか。
自己理解が私たちにもたらすのは大雑把には次のようなことです。
1 自己受容
2 他者を受け入れられる
3 より良好な人間関係
4 より納得のいく決断
今回は、上記1から3までについてお話してまいります。
他者を通じて自己を理解する
私たちは他者と関わる中で、あの人は内向的だとか外交的だとかといった、
外から見て感じられるような、その人に特徴的なふるまいのようすを話題にしたりします。
自分自身についても、ほかの人と比べながら、
内向的だなあ、とか繊細だなあ、とかさまざま感じるわけです。
また、直接なり間接なり、他者から「あなたって繊細だよね」などと言われることもあります。
こういった他者とのかかわりを通して、自分のさまざまな特徴をまとめあげ
「自分は〇〇な人間だ」、と自分なりに理解しています。
つまり私たちは自己を理解するとき、他者を通じて理解しているわけです。
受け入れやすい自己、受け入れ難い自己
こんなふうに理解した自己というのはさまざまな特徴を持っています。
その特徴の中には、自分にとって受け入れやすい自己もあれば受け入れがたい自己も含まれています。
例を挙げましょう。
ある女性は、パートナーである夫から「他人のことを決めつけすぎる」とたびたび指摘されます。
そしてその指摘は、その女性の良くないところだという意味で言われるそうでして、
女性はかなり腹をたてるそうです。
本人としては、そんなつもりなどまったくありませんから、
「他人のことを決めつけすぎる自分」を、そうそう簡単には受け入れません。
「そういうあなたは、とんでもなく頑固者だ」とパートナーである夫に対して
常々感じている良くない点を言い返す、という具合です。
お互いを理解しあうどころか、理解から遠ざかるということでした。
こんなふうにご家族やご友人、職場の人と関わる中で、
自分にとって受け入れがたい自己に出会ったことがあるかもしれません。
また反対に、自分では気がつかなかった自分の特徴に気がつき、すんなりと受け入れることができた、
そんな経験もあるかもしれません。
ちょっと想像してみましょう。
あなたは、お友達とJR東京駅前を歩いています。
多くの人が行きかう中を、車いすに座っている人が、手に持っていた携帯電話を落としてしまいました。
あなたはさっと駆け寄って、携帯電話を拾って手渡します。
一緒にいたご友人は言いました。
「実は前から思っていたんだけど、あなたって、思いやりと勇気があるわよね」
あなたは「え?そうかな?当たり前のことをしただけなんだけど」と答えるかもしれません。
お友達はさらにこう言います。
「いや、なかなかできることじゃないよ」
どうでしょうか。
「気が付かなかったけれど、私ってけっこう思いやりと勇気があるのかもしれない」と
これまで気が付かなかった特徴に気づき、それをすんなりと受け入れることができたりしませんか?
そして、もしかしたら、あなたはお友達に対してこう言うかもしれません。
「そういえば、●●さんて、よく今みたいに人のことをほめてくれるよね」
こういったやりとりから、気が付かなかった自分を受け入れ、
もっと言えば他者の特徴にも気が付く、という経験もあると思います。
2つの例で挙げたように
自分は気が付いていないけれども、他者は気が付いている自己というものがあります。
ということは反対に、自分は気が付いているけれども、他者は気が付いていない自己というのもありますね。
こういったことを図にしたものがあります。
ジョハリの窓と呼ばれるものです。
それぞれ
〇他者が知っていて、自分が知っている私=「開放領域」
〇他者が知っていて、自分が知らない私=「盲点領域」
〇他者が知らなくて、自分が知っている私=「隠蔽領域」
〇他者も知らない、自分も知らない私=「未知領域」
としてあらわした図です。
他者と関わる中で自己理解を深めていく、というのは
盲点領域については、フィードバックを受けるなどして、
隠蔽領域については、自分のことを他者に話すなどして自己を表現することで、
開放領域を広げていくこと。
それがすなわち自己理解を深めていくことと言えます。
自己受容とは?そしてそれがもたらすこととは?
さて、先ほどの、他人のことを決めつけすぎるという女性の例に戻りましょう。
この女性、実は20年前の私のことです。
だいぶ、いいえ、かなり嫌な特徴ですね。
なので当時は、とても受け入れがたい自己でした。
そして今では
「たしかに私って他人のことを決めつけすぎるところがあったよなあ」と
こんな自分もそのまま受け入れることができています。
これを「自己受容」と言います。
自己受容とは何でしょうか。
「心理学辞典」初版第18刷によりますと次のように説明されています。
「自己のありようをそのまま受け入れること(中略)
自己を受容することは、自発的な行動変化の原点となり、
他者受容や良好な人間関係の基盤となる(後略)」
とあります。
ポイントは「自己のありようをそのまま受け入れること」、「他者受容」です。
人のことを決めつけすぎる自己をそのまま受け入れたわたしは、
今では夫のことも「とんでもなく頑固だなあ」とそのまま受け入れることができています。
夫の頑固さもあまり気にならなくなりました。ハッピーなことです。
そんなはずはない、とか
そんなの認めないといった態度で自分を扱うことは、自分で自分を攻撃することにほかなりません。
本来かけがえのないあなたという存在の、ある面を自ら損ねる態度だからです。
悪い(と思う)面だから見ない。
悪い(と思う)面を認めたくない。
自分の悪い(と思う)面を見つめるのは、勇気がいることだからです。
もし勇気のない状態なら、悪い(と思う)ものと闘うのは怖いことです。
だからこそ、悪い(と思う)面を指摘されたりすると耳が痛いし、胸が痛むし、目を背けたくなるのかもしれません。
そして
そうやって自分がそういう面を持つことから目を背け続ければ、
その悪い(と思う)面は決して良い方向へ変化することはありません。
人としての成長に結びつきません。
(悪い悪いと連発していますが、至らない点があること、未熟であることそのものは悪いことではありません。
至らない、未熟であることで周りに迷惑をかけてしまうことは誰にだってあります。
それについては申し訳ないことをしたなと反省し、改善し、より発達していくことが大切なのですが、
今回はその点についてのお話は割愛します。)
反対に
そういう自分も自分なんだな……と受け入れられる態度や在りようは、
自分を理解すると同時に自分を癒す態度、在りようです。
そして
その態度はまさに「自発的な行動変化の原点」となって
他者を受容する基盤となっていくのです。
他者と良好な関係を結び、人としての成長につながっていくのです。
なお、カウンセリングはお困りのことを改善させる効果が見込めることはみなさんすでにご存じかと思いますが、
実はカウンセリングの持つ大きな力の一つとして「自己成長」があるのです。
カウンセリングの場で「自己理解」が扱われるのはこういった理由があるからなのです。
自己理解→自己受容→そして他者受容へ
このように自己を理解し、自己を受容することで、
他者を受け入れることができるようになります。
そしてこのことがより良好な人間関係をもたらすのです。
ここが今回のテーマの中で、とくに強調したい部分の一つです。
人は自己を受容できる度合いでしか、他者を受け入れられない、と言われています。
再び想像してみてください。
例えば、自分の悪い面はすべて絶対に認めない(受け入れられない)という態度の人。
(あなたの周りにも1人くらいはいるかもしれません)
そういう人は他者を受け入れていますでしょうか?
おそらく受け入れていないのではないでしょうか。
少し想像してみただけでこれは明らかなことでしょう。
自己を受け入れられない人は、他者も受け入れられないのです。
つまり、自己を受け入れられるようになればなるほど、
他者を受け入れられるようになるということです。
自己を理解し、自己受容し、そして他者を受け入れること。
そしてそれが、あなたに良好な人間関係をもたらすこと。
これが非常に重要です。
まとめ
では、まとめましょう。冒頭でお伝えしたとおり、自己理解はこんなことをもたらしてくれます。
1 自己受容
2 他者を受け入れられる
3 より良好な人間関係
(4 より納得のいく決断)※
つまり自己理解は、より良い人生を送るために必要不可欠の取り組みであるということで
その重要性を理解していただけたかと思います。
※4 より納得のいく決断 については、
次回のブログでお話いたしますね。
もし、一人では自分を受け入れられない、もうずっと自分を否定してきたというときは、
一人で抱え込まず、その思いを信頼のおけるご友人やご家族に聞いてもらうのはとてもいい手段です。
もし、聞いてくれる人、話せる人が見当たらないときは、ぜひカウンセラーを頼ってください。
あなたがはなせるよう、じっくりとお聴きいたします。
ご一緒に考えて参りましょう。
この記事があなたのお役にたてましたなら幸いです。